あくまでも個人の意見で、押し付けるつもりはないが、ティックマークが大嫌いである。
小学生の頃、読書少年だったぼくは図書館が大好きで、ある日ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』という本を借りてワクワクして読み始めた。
最初のページを開いた瞬間、そこに鉛筆で
「犯人はXXXだ!」
と落書きがしてあり、幼いぼくは怒りと喪失感に打ち震えた。貴重な推理小説の名作の一つを、完全に無にされたのである。
これと同じ怒りと虚しさを、30年後の備中長屋坂で経験した。
カウントダウンというルートの核心部を超えて悪いクリップができずにもがき、落ちたくないと慌てふためいたぼくの目に顕著なティックマークが飛び込んできて、反射的に手を伸ばすと目立たないくぼみに指がかかり、ぼくの体は止まった。
いつか経験したあの怒りと虚しさが蘇ってきた。
ぼくの楽しみは奪われたのだ。誰かがなんの気なしにつけた、白いマーキングによって。
ぼくは印のついたところを順番に保持するスポーツがしたいわけじゃない。自分で好きなように岩を触って、見つけたホールドで好きな動きで登りたいのだ。
まあ自分もチョークを使い、チョーク跡には目をつぶっているのだけれども、ティックマークは人工的で萎える。
ティックマークはもはや一般化してしまい、何が悪いのかよくわからない、という仲間もいるので、こんなひねくれ者の意見も心に留めてほしい。
しないでくれ、とは言わないが、本当に最小限にして、終わったら消してほしい。
そうは言いながらも、そもそも公共のルートに自分だけの目印をつける行為は、図書館の本にメモをするのと変わらないように僕は感じる。
岩質によってはブラッシングしてもきれいに消えないことも多いし。
お、そういえば俺はすっかり黄色い部屋の犯人を忘れているぞ、、
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by a_roofbeam
| 2023-12-23 23:35
| クライミング