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by a_roofbeam

ヨセミテツアー 2018 ノーズ その 4 さあ、頂上だ。一緒に歩こう。

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チェンジングコーナーの次のピッチはぼく、その次をタケちゃん、ウッチーと順番にリードしていく。

このバレーの中でも一番巨大な岩の、それも中央に、1000メーター近くラインが走っている奇跡を実感する。そのほぼ8割がたクラックシステムがつながっていることがこのルートの素晴らしさだ。そしてハンマーレスのエイドとフリークライミングで登れる。

初登にも再登にもストーリーが有り、ぼくらは登りながらそれを感じることができる。

ストーブレッグを登れば伝説の ”ストーブの脚を切ったやつ” にお目にかかれるし、

キングスイングではラインを繋ぐことの執念を感じる。

チェンジングコーナーでリン・ヒルごっこをする心の余裕はまったくなかったのが悔やまれるが、、、

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ウッチーが最終2個手前のピッチをオンサイトで見事に締めると、いよいよヘッドウォールのボルトラダーが現れた。

タケちゃんがリードし、順番ではぼくがユマーリングでウッチーがクリーンアップだ。
ここがノーズで一番高い場所で、しかもハングして一番壁から離れるおたのしみ空中懸垂になる。

(おれ)ウッチー、空中懸垂やりたいか? いや、やりたいだろう?

(ウッチー)いや、jibeさんの順番だし、やってください。

(おれ)う、うん、、、

10分ほど経過し、ぼくが内心のチキンとの戦いに耐えきれなくなってきた頃にウッチーが満面の笑みで

(ウッチー)ぼくが懸垂行きます(笑)

(おれ)そ、そうか、残念だが譲るよ。楽しんでくれ。

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バレーにウッチーの甲高い叫びが響きわたった。

本当の最終ピッチ、傾斜が寝てきてほぼノープロで最後は歩きになる。

タケちゃんリード。想像以上の時間が経過し、最後のビレー解除が聞こえた。

ウッチーがユマールで上がり、壁に残るのはぼくだけになった。

最後の登りをスタートする。傾斜が落ちるにつれ、それまで圧倒的だった遠い風景が徐々に失われていく。それはぼくらが4日かけて苦労して稼いだ財産みたいなものだった。

最初はずっとメドウとカシードラルが威圧的に見えていたのに、
やがてカシードラルを見下ろしてハーフドーム、
そしてその向こうに雪のついたハイシエラが見え始めたときには何かの物語のように感動を覚える。

ぼくは頂上につきたいはやる気持ちと裏腹に、傾斜が失わせていく、ノーズからだけの景色の見え方がとても名残惜しくて何度か振り返った。
垂直から水平への帰還だ。

そして涙が溢れてきた。

前回の失敗やら、これまでの計画やら、いろんな感慨があった。だけど素直に登れて嬉しかった。
6年前にタケちゃんに連れてきてもらったヨセミテで、あまりにも偉大なエルキャピタンを見たときに素直にこれを、このラインを登りたいと思った自分でよかった。

完全に歩きに移行すると少し先にロープをさばくタケちゃんの姿が見えた。

(タケ)おう、あれが頂上だ、一緒に歩こう。

この一言を聞いてぼくの感動は頂点に達した。
タケちゃんと肩を組んでノーズの木まで歩いていくイメージが一瞬で頭の中に広がり、過去の思い出が湧き上がった。

やはり前回の失敗から今回の計画まで、二人で費やしてきた年月が長いだけにタケちゃんとの思いは何より強い。
同じ年齢で、同じくらいアホで、普段はボロカスに言い合っている友達と計画してここまでこれた。この感動はひとしおだった。

感慨から我に返って友達の姿を探すと、

彼はスタスタと先に歩いてノーズの木でウッチーと談笑していた。

え、えぇと、さっきの言葉は、、、

こいつには決定的に空気を読むとか、そういうものが欠如している。。。

ま、イメージの共有が若干うまくいかない仲間のもとに、
ノーズの木に向かってぼくも歩き出し、タケちゃん、ウッチーと熱い抱擁を交わした。泣いてるのはおれだけだったが。

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物語は終わる。

初登には初登の物語があり、歴史的な再登や記録更新などの物語もある。

だけど、ぼくらが4日間かけて、くだらない話をしてクタクタに疲れ果てながら行ってきた平凡な登攀は、ぼくらだけの最高の物語である。

大げさなことじゃない、気の合う仲間と、ちょっとした冒険気分を味わえて、素敵な旅だった。

壁からの風景がもう一度見たくなったときに、また登りたくなるのだろうか?

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”一度エルキャプを登ったら、もう以前のように大きくは見えなくなるよ”

ボロボロになってたどり着いた下界で、車をデポしたメドウまで乗せてくれた気のいい若いクライマーは、ぼくも何度もノーズを登ったよ、と言って興奮気味に語った。

車を降りて別れを告げ、ノーズを改めて眺めたが、とても小さくは見えなかった。



by a_roofbeam | 2018-10-17 06:29 | クライミング